THE MOMENT

THE MOMENT

2023.03.17 - 2023.04.08

濱大二郎

展覧会の概要

「 THE MOMENT 」濱 大二郎 | Daijiro Hama 2023.3.17 - 4.8

この度、MARUEIDO JAPANにて濱 大二郎の約2年ぶりの個展「THE MOMENT」を開催致します。ヨーロッパと日本を行き来しながら活動する彼は、日常生活の中で周囲の環境や時代の変化を感じ取りながら、自問自答によって彼自身の内面から生まれてくるものを描き残していっているアーティストの一人です。2021年 同ギャラリーでの個展「MUTANT」で発表された作品中に登場し、彼の作品中の象徴的な1つともなった突然変異体 PUMAN は、彼の自画像であり、鑑賞者の肖像でもあり、誰もが持っている人間の純粋な部分を映し出してくれる存在です。未だ記憶に新しい2022・2023年のアートフェア東京での作品や2022年ライトシード・ギャラリー(ワタリウム美術館)での展覧会「Telepathy」では、PUMANの友達であるFriendたちも登場しました。PUMANと共通する突然変異体でありながらも、友達は他者であり、自己とは異なる存在です。自己と他者との比較から生まれる感情や欲が反映され、Friendは様々な姿・形をし、その他者との関係から自己が形成されていることを彼自身も再認識しながら描いています。2020年代は多方面で変化の時代と言われていますが、濱自身にはどのような変化がおこり、作品に反映されていくのでしょうか。

今回発表する新作で彼は、今までの知識や経験で培った感覚やテクニックによる表現と、その反対にある本能による衝動的な筆致を交えて表現しようと試みています。図像や空間を歪めたり、かき消すように描かれたストロークが加わり、絵の具が垂れることで無作為に現れる形跡も残されています。この理性と本能の葛藤により生まれる創造的破壊とも言える行為は、ある種のアップデートであり、無限の再生を生み出していくものでもあります。しかし、同時にリスクや混乱を招くものでもあります。彼の直感的で無作為な筆致は、既存の概念や価値観を超え、新たな境地に辿り着くには本能や自立した思考が必要だということを暗示しているようです。

また、彼の絵の特徴の一つでもある細い線によって描かれている粒のようなものは、素粒子が世界を構成していると科学する量子力学のように、あらゆるモノの素(もと)となっている目に見えないほど小さな存在を表しています。彼の描く世界には必ず存在しており、この粒がPUMANやFriendたちを構成している、もしくはそれらが粒を発しているようにも見えます。この視点から思考していくと、KŪKANやHarmonyといったこの粒だけで描かれるシリーズは、作中に登場する者たちをクローズアップした視点と、この者たちが存在する世界を俯瞰した視点のどちらとも捉えることができます。このミクロとマクロの世界を行き来する彼の表現によって、現実世界のパラレルワールドとも言える世界が絵の中に顕在化されています。

それから、もう一つの特徴は絵の中の小人たちの存在です。彼は2012〜2020年の間、モノクロ作品を描いていた時期にも画面上に小人を描いていました。2021年に色を使用するようになってからも単一の色で描くことはありましたが、様々な色違いの小人が登場するのは今回の「THE MOMENT」シリーズが初めてです。彼の絵の中での小人たちの在り方の変化には、近年の人々の変化もかさなり合っています。産業革命以降の今までの資本主義社会においては、目に見える物で豊かさを望む人々が多い時代だったゆえに、基準が設けられ均一化、没個性化されていきました。しかし、2020年以降は、目に見えないもの(知性や精神性)が重要視され、個性を際立たせる多様性の時代へと変化してきています。モノクロでみな同じ色だった人々が十人十色へと移り変わっているのです。

そして、展覧会タイトルであり、新たなシリーズの作品タイトルにもなっている「THE MOMENT」は、ある瞬間を捉えたものでありながら、所々の太い筆致や色のグラデーションから、動きや流れを強く意識させられます。F200号の大作に描かれた大きな穴、ある地点から発現したエネルギーは、地上よりも遥か上空に現れているがゆえに、地上の小人たちが気づいているのかは定かではありません。しかし、確かにそこに居る大きな存在は、人々を見ています。この他にも同タイトルの作品があります。これらの絵には大きな人型の存在が描かれ、先述した大きな穴から出てきた一つの大きなエネルギーが人化したもののようにも見えます。そこに集まっているのか、そこから生まれているのか周辺に小人たちも描かれています。ここでは小人たちは、大きな人型の存在に、並走したり、流されたり、掴まったり、乗ったりしています。私たちの生きる世界においても、自然に存在するエネルギーと人々の行動が生み出すエネルギーが、互いに影響し合う関係性の中で大きな力が生み出されていくということを感じさせられます。

彼の作品の中には無数のエネルギーと人々が存在し、それらとの関係は個々人の運命の糸としての選択肢が多様にあるように感じます。しかし、私たちは生きていく中で人それぞれの道を見出し、選びながら進んでいかなければなりません。私たちがいる此処は何処なのか、何が起こっているのか。今、この瞬間を受け入れることで、過去を振り返ることも、未来を見据えることもできるのではないでしょうか。
テキスト : 渡邊 賢太郎
・濱 大二郎 Daijiro Hama

1984年島根県出雲生まれ。2005 年にカナダのトロントへ移住、映像作品の衣装と美術に携わる。
2011年の帰国から京都を拠点に活動する。2014年「Nuit Blanche Kyoto」に参加。 2015 年アムステルダムにて個展「INVISIBLE」を開催。2018年よりオランダに移住。パリにて「Urban Art Fair」(2019)、「ASIA NOW Paris Asian Art Fair」(2019~2022)に参加。2021年4月パリにて個展「MUTATION」同年6月にMARUEIDO JAPANにて個展「MUTANT」を開催。2023年2月ロッテルダムにてフランス人アーティストのSamy Sanとの二人展「Inner Friends」を開催。現在、オランダ・デン・ハーグを拠点としヨーロッパ・日本で作品発表を行う。
instagram / @daijiro.hama website / daijirohama.com

アーティスト

濱大二郎