2024.05.18 - 2024.06.08
小川佳夫、門田光雅、久保寛子、品川はるな、水津達大、吉川民仁
この度、MARUEIDO JAPANでは、6人のアーティストのグループ展「あをとみどりの考察」を開催いたします。
日本語にいう「青」と「緑」は、何色を指しどのように用いられてきたのでしょうか。『古事記』に出てくる色の名はアカ、クロ、シロ、アヲの4種しかないとされ、日本において最古の色名の一つである「アヲ」は“awo”と発音され、現代の「青 」の指す色相ではなく、彩度の低い色全般を指す語であったと言われています。(佐竹昭広氏著作より)
後に中国から漢語「青」が輸入され、平安時代以降に、色相を表す語彙として普及し、現代では晴天の空や海の色を想像する一般的な「青」として使われています。それに対して「みどり」は新芽の色であり、現代の「緑」と色相とほぼ変わらない中、「青」の色相は広く「青信号」「アオガエル」などの例があるように緑の色相の対象物も含まれています。
「青」と「blue」、「緑」と「green」もイメージする色の印象は厳密には同じではないと思われます。また、日本人は「青」の中でも「藍」に非常に親しんできました。藍の色を「ジャパン・ブルー」と呼んで称賛したのは、明治8年に来日した英国人化学者ロバート・ウィリアム・アトキンソンでした。
色にかかわる文化には、民族や社会によって違いがあり、言葉で表される色の範囲や必要とする色名の数や種類にも差があると言われています。(福田邦夫氏著作より)
本展では物理的な色の分析(波長)ではなく、「青」、「緑」に対するその色の連想や象徴など、文化的背景について考察する展示となっております。
小川佳夫は、油絵具でキャンバスの表面を厚く塗り込み、ペインティングナイフを一振りし、画面に一本の軌跡を施します。深い空間の中に、突然現れる言葉にならない「何か」を画面に生み出します。一回性のストロークは書道がもつ、余白との緊張感を思い起こさせます。本展では過去作(2009年~2019年)を中心に展開いたします。
門田光雅の「Ethos」は、青と緑以外の多種類の絵具が混ざり合いながらも調和し、青と緑が持つ生命的なエネルギーを引き出しています。隣り合う色は、環境の変化によって絶え間なく変化していくことを印象づけます。
久保寛子は、先史芸術や民族芸術、文化人類学の学説のリサーチをベースに、身の回りにある素材を用いて彫刻作品を制作しています。床の間に飾られた「青い尖底土器シリーズ」Dokiは、工事現場などに使用されるブルーシートを素材に作られ、その独創性に富んだDokiの姿は神聖さを持ち新たな価値を想像させます。
水津達大の「Sea trace」 は、岩絵具の群青(藍銅鉱)を使い一見単色の塗り重ねのように見えますが、自らのルーツである広島の厳島で見た夜明け直前の青い海景を描いています。特定の土地で採取した海水を絵の具に混ぜることで、作品に風土性や自然との関係性を明示しようとしています。
品川はるなは、アクリル絵の具と剥離性のポリエチレンクロスを用いキャンバスから絵の具の膜の一部を引きはがすことによって、立体的な独特の表情を生み出します。物質感の強さが引き立つことにより、色が持つエネルギーが重層的に発せられます。
吉川民仁の「雨声」は、湿潤な風土の日本において雨が多くなる季節を予感させる薫りたつ緑の抽象表現になっています。「穹」は、「雨過天青雲破処」の言葉のような雨上がりのしっとりとした水気を含んだ空の色を彷彿いたします。
世代や背景の違うアーティストたちが扱う「青」と「緑」を風薫る季節に体感していただければ、幸いに存じます。