光の庭  浜田 涼/渡邉 野子 キュレーション : 石井正伸

光の庭  浜田 涼/渡邉 野子 キュレーション : 石井正伸

2024.01.20 - 2024.02.10 *会期を2月17日まで延長いたします

浜田 涼/渡邉 野子 キュレーション : 石井正伸

展覧会の概要

「光の庭  浜田 涼/渡邉 野子」


「視覚芸術」とは、結局のところ、いかにして光を対象物に照射し、その反射した光を鑑賞者の網膜へと届けるかということである。観る者の網膜に知覚された光は、視神経を介して信号として脳に伝達され、像として認識される。ここで認知された色や形は、一旦その解釈を観る者に委ねることになる。それが、単なる心地よい視覚体験であるか、政治的メッセージとして受け取られるか、あるいはまた他の何かとして解釈されるのか。一義的な解釈に陥ることなく、いかに多義性を持たせることができるかは、優れた作品が備えている特性である。

本展でご紹介する浜田涼、渡邉野子の作品は、それぞれに特徴的な色彩を湛えている。作品と色彩の関わりを見れば、二人が<光>の存在に自覚的な美術家であることが窺える。またこの二人に共通しているのは、モダンアートの問題系をそれぞれの作品に内包しているという点にある。これは、マーケティングによって制作された作品や、安易な社会的メッセージを託された作品とは、一線を画していることを意味している。

浜田は絵筆をカメラに持ち替え、日常生活の中に潜む「何か」を写真で提示する平面作品を制作する。<光>を操作し、焦点をずらせた曖昧なイメージは、観る者の記憶のどこかにある、かつて出会ったであろう情景と照合させられる。これまでに見たことのない色彩やおぼろげな輪郭線をつぶさに眺めながら、ようやく浮かび上がった既視感のようなものが、浜田の作品と向き合う手がかりとなる。観る者の視線をしばらく止めさせる浜田の作品は、曖昧な記憶を手掛かりに認知したり、一瞥して知覚できたように錯覚したりと、結論を急ぎ求める現代人の視覚に対し、その是非を問うている。

他方、渡邉は、一貫して抽象絵画を制作する画家である。写真の発明以来、幾度となく「絵画の死」が標榜され、それに代わる様々なメディアが登場し、美術表現そのものが多様化してきた。どの時代でも画家たちは、死に至らしめた絵画の諸問題を超克し、時代に応じた新しい概念や方法論を取り入れながら、新しい絵画を生み出すことに挑んでいる。近年、「対比における共存」というテーマを描く渡邉の絵画は、力強いストロークと独創的な色彩が特徴である。描かれた線は激しい動性を孕み、色彩はそれぞれに対立と融解を繰り返しながら共存している。画面には、遠近法や明暗法、色相の調整といった従来の絵画の約束事は存在していない。そこにあるのは、<光>に照らし出された色彩と筆致が衝突・仲裁・調和によって生成される未知のイメージに他ならない。

本展の会場であるMARUEIDO JAPANのギャラリーにおいては、作品の魅力を引き出すための<光>が効果的に機能している。歩道に面した高層ビルの1階に位置する同ギャラリーは、歩道とギャラリーがガラス壁一枚で仕切られているだけの、言わば外と内が連続するシームレスに近い構造となっており、歩道を往来する人々が気軽に立ち入ることができる空間になっている。陽光が降り注ぐ美しい庭を訪ねて、自然美を楽しむように、浜田、渡邉の作品が発する光に満ちたギャラリーにも立ち寄って頂きたい。芸術美の庭となったMARUEIDO JAPANの光溢れる清白なスペースを訪れる方々にとって、本展が視覚に麗しく、心地好い美術体験となることを願うばかりである。

石井 正伸(インディペンデントキュレーター)





石井 正伸(いしい・まさのぶ)
インディペンデント・キュレーター。1968年東京生まれ。明治学院大学文学部芸術学科にて西洋美術史を専攻。1991年より西武百貨店にて、美術展の企画運営を担当する。1999年セゾンアートプログラムのギャラリー・ディレクター、財団法人セゾン現代美術館学芸員として勤務。2007年からフリーランスとして活動し、展覧会企画、企業美術館の設立・運営等を手掛ける。2015年より一般財団セゾン現代美術館の学芸部長、美術館運営部長を経て、2021年より現職。

アーティスト

浜田涼、渡邉野子